金属の実験




   1. 低融点合金の作成:


  インジウムまで含む低融点合金(易融合金)で最低融点(共晶点=46.7℃)のものを作成した。 (カドミウムは金属内に閉じ込められているので、毒性はほぼ問題ない。)

mp(℃) Bi Pb Sn Cd In 合金組織
  46.7 44.7 22.6  8.3  5.3 19.1  共晶
  60.0 53.5  17  19  − 10.5  共晶  
  70.0  50 26.7 13.3  10  − 四元共晶 エルハ−ト
  60.5  50 25.0 12.5 12.5  −     ウッド
 100.0  50 28.0 22.0  −  −    ロ−ズ

  ビスマス45.6g、鉛23.1g、錫 8.5g、カドミウム 5.4gを先に溶融し、火を止めてから インジウム(中国産、ナイフで切れる)19.5gを加えた。(先にインジウムを溶かすと、より高融点の金属が混じりにくい) 漏斗に敷いたろ紙に流し込み、約50分の時間を取ってようやく固化した。 共晶合金なので、あたかも一種類の金属のように融点(共晶点=46.7℃)が定まる。

  この合金約100gを漏斗に入れて空中で放冷した冷却曲線を測定すると、ほぼ一定の共晶温度であり、表面は固まっても内部は20分近くも液相が残って温度が変わらなかった。
  (by. 3.低温域の記録温度計: 凝固時膨張するのでセンサにはシリコンゴム管をかぶせ、エポキシで覆った。 中心より外側に置いたので 2−3℃低めの測定値となった。)

 

 



   2. ガリウムの電解実験:


  しばらく(30年?)取っておいた ガリウム・インジウム合金(真空スパッタリング・ターゲットの接着用、酸化しやすい)があったので、ふたを開けてみると 酸化物に金属がしみ込んでスポンジ状になっていた。ガリウムは、「濡れ性」が非常に強く、多くのものにしみこんで付着する。無毒ではあるが、手に着くと黒くなって取れにくい。(スキー用のガリウム・ワックスの用途がある)
  またガリウムは、多くの金属(Al、Zn、Cu、Ni、Ag、Pt、Feなども)と合金を作る。鉄との合金は 磁性体として用いられる。

  そこでまず、10%くらいの水酸化カリウム溶液を加えて温め、溶けない酸化物(酸化インジウムがメイン)と金属部を分離した。
  次に、そのインジウム・ガリウム合金をステンレス容器に入れ、KOHに水を少し加えた過剰の濃水酸化カリウム溶液と加熱(アルカリ加熱危険、顔面保護具を着ける)してステンレスさじでよく撹拌し、ガリウムのみを ガリウム酸カリウムの形に反応させて、アルカリと反応しにくいインジウムから分離する。(2−3回 水を少量加えて加熱することを繰り返す) 容器の底には未反応のインジウム・リッチになった合金が残る。 これを水で抽出して、ガラスフィルターで吸引ろ過すると、無色透明の液となり、約200mlとする。

      2 Ga + 6 KOH + 6 H2O → 2 K3[Ga(OH)6] + 3 H2 ↑

  ガリウムは卑な金属であるにもかかわらず、水素過電圧が比較的高いので、亜鉛などと同様に酸性浴からでも析出する。ここでは、KOHが多量に混じった、強アルカリ浴から電析する。
  抽出液を200mlのトールビーカーに入れ、溶融ガリウムと反応しない モリブデン棒(φ3mm)を 陰極、 白金−ステンレスメッシュを 陽極として、12V5Aのスイッチング電源を直接用いて、3〜5A、モリブデン電極の浸漬長1−3mm、極間距離3cm で、約6時間電解した。 溶液は発熱し、蒸発するので、電極を徐々に下げる。
  モリブデン棒陰極に析出したガリウムは、液滴となってビーカーの底にたまる。 (* 水素と酸素が同時に発生するので、スパーク等の引火による爆発注意・フラスコのような閉じた容器ではやらないこと) 電解が進んでガリウム濃度が薄くなると、水素ばかり発生して電解効率が下がる。
  できたガリウム金属(融点 29.78℃)は過冷却するので、氷冷によって固化させる。(どうしてもインジウムが多少混じって融点が下がる。)

      [Ga(OH)6]3−aq + 3 e → Ga ↓ + 6 OHaq    (アルカリ水溶液中)

 



   3. 鉄の電解実験:


  2価の鉄イオンFe2+は、3価の鉄イオンFe3+よりも 広いpHの範囲で安定で、水酸化物を沈殿しにくい。一方、酸性を増すと、陰極から水素ばかり出て効率が落ちる。 硫酸鉄(U)に等量の硫酸アンモニウムを加えた物(=固体ではモール塩 (NH4)2Fe(SO4)2・6H2O)は、硫酸アンモニウムがpHの緩衝剤となって分析試薬に用いられるほど安定する。 (鉄電解の実験: 参考

  FeSO4・7H2O (7水塩、M=278.0) 28g、 (NH4)2SO4 (132.1) 14g を水に溶かして 200mlとし、200mlのトールビーカーに入れる。 pHを測ると、3.65 だった。
  陽極は、鉄線(φ.7、切れやすいのでもっと太い線のほうが良い)を あらかじめ希硫酸に漬けて表面の亜鉛Znめっきをはがし、ぐるぐる巻きにする。 陰極は安価な炭素棒とした。(析出した鉄を取り出しやすい 薄いステンレスでも良い。炭素が混じらない。)
  電解条件は、 pH(初期)3.65、 極間 d≒3cm、 陰極のカーボン φ1cm、浸漬長 6cm ∴ 19cm2 = 0.19dm2、電流1Aで 5.3A/dm2、 2.4〜2.8V、1.0 A、 浴温25℃(発熱は小さい)、 低電圧で比較的電流が大きく、抵抗型の定電圧電源ではトランジスタの発熱が大きいので、長時間の電解には、可変型の降圧スイッチング電源(秋月電子のキットを少し改造、入力:スイッチング電源 12V5A、出力:0.8V〜8V、max 5A、 発熱は小さい。)を用いた。 陰極からは水素が少し発生する。

  2時間半後、陽極の鉄線が切れたので陽極を付け替え、もう2時間電解した。 この時点で 陰極の炭素棒には 半ば粒状の鉄が密着していた。 電流を1.5A以上にすると部分的に成長し、剥離するとぼろぼろの粒となる。 磁石に付く。
  (* 電鋳のような緻密な膜とするためには、塩化物浴を用いる。 (FeCl2 225〜450g、 CaCl2 110〜150g /1000ml、 2〜8A/dm2、 pH=0.15〜1.5、 85〜95℃))

 



   4. テルミット反応の実験:


  (1) 鉄テルミット

  酸化第二鉄(酸化鉄(V)) Fe2O3(159.8) と、アルミニウム粉末 Al(27.0) を、モル比より少しAlを多めにして(Alが等量または少ないと反応しない)、乳鉢でよくすり潰して混合し、加熱乾燥してるつぼに入れ、マグネシウムリボン(+少量の塩素酸カリ)で点火すると、激しく反応して高温になり、鉄を遊離する。 ただし、鉄の融点が高く(1538℃)、なかなか溶融しない。(炭素を混ぜると融点は下がるが 鋳鉄(融点1200℃以下)になる。)

      Fe2O3 + 2 Al → 2 Fe + Al2O3

  一回目は、Fe2O3 6.4g、 Al 2.6g をよく混合して、加熱乾燥(200℃程度)して、普通の磁製るつぼ(30cc)に入れて、(下に石英皿を置き)マッフル内に置き、点火。(下には念のため、ボウルに水を張っておく。)
  二回目は、Fe2O3 16g、 Al 6.3g をよく混合して、加熱乾燥(200℃程度)して、透明石英のるつぼ(50cc)に入れて、同様にマッフル内に置き、点火。

  どちらも、内容物が吹き飛ぶようなことはなく、比較的安全に実験できたが、小粒状、あるいは、粉末状の鉄ができた。(砕いて、磁石で選別) 磁製るつぼは熱ショックで割れたが、石英るつぼは熱膨張率が低く(=熱ショックに強く)割れないで、冷えてから逆さにして軽く叩くと 内容物が出てきて、るつぼは再利用できる。 今回量が少ないのと、断熱がよくできていないのですぐ冷めてしまい、鉄が流動するようなことはなかった。これは石英の熱伝導率が高いためで、アルミナ・シートやマグネシア・セメントを内張りにして断熱性を上げて行うと少しは違うと思われる。 (YouTubeにあるような、水で湿らせたろ紙を二重にして点火する方法では断熱が可能で、1.6g、0.6gの少量でも鉄の玉ができる。)

 

 

  そこで3回目の実験として、石英るつぼ(50cc)にアルミナシートの内張りをし、底には石英ウールを敷いて、多少断熱性を上げた。(Fe2O3 16g、 Al 6.3g) 一部は溶けて玉になった。

 


  (2) 銅テルミット (危険・有毒)

  酸化第二銅(酸化銅(U)) CuO を用いたテルミットは、事故例もあるように内容物が噴き出して非常に危険なので、今回は 亜酸化銅(酸化銅(T)) Cu2O (16g)、アルミニウム紛(2.4g)を用いた。 しかしそれでも一瞬に反応して、内容物のほとんどが噴出して、溶けた銅の粒が壁面にくっつく程度しか残らなかった。 (次回は、さらに金属の銅紛を混ぜて、反応速度を下げることを試みたい。)

      3 Cu2O + 2 Al → 6 Cu + Al2O3
 




        § 大昔の金属精錬:

  ノアの洪水以前(4000年前以前)の琥珀(こはく、樹液が固化した化石)の中に閉じ込められた気泡の分析によると、酸素濃度が現在の21%よりも高い 約30%も含まれていたそうです。(by.ランディス、米・地質学者) また、洪水前なので、大気の上層に 大量の水蒸気層があり、気圧は2−3気圧はあったと推定されます。
  それで、ノアの洪水以前は、恐竜は大きくなることができ(同じ時代に恐竜と人とが同居していた)、翼竜は空を飛ぶことができ(現在の空気密度では飛べない)、植物(リンボク、フウインボク、大型のシダ類など)や 1mのトンボなどの昆虫が大型化していました。 また、トバル・カインの末裔のように、青銅や鉄などの金属精錬も、比較的容易にできました。酸素リッチの空気を吹き込むやりかたは、現在の転炉で、鋳鉄を鋼(はがね)や合金鋼に転換するときに用いられる方法と同じで、質の良い合金類を作っていたものと思われます。

  洪水後に急に酸素濃度が下がったのは、酸素がCO2として石灰岩等の炭酸塩に固定されたからと思われます。

  また、トルコとイランの国境付近にある、ノアの箱舟の遺跡から、アルミニウムやマグネシウムのような軽合金を含む 銅の合金製の大きなリベットが多数見つかりました。 空気による精錬だけではなく、おそらく電池を組み合わせた 電解精錬の技術もあったと推定されます。

  このように、聖書の創世記の記述は、単なる”神話”ではなく、「事実」であることになります。


            地層年代とノアの洪水       3.箱舟の調査結果




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